そして――トルティニタさんは、ぽつりぽつりと話を始める。それは、まるで物語
のように美しくて、残酷な話だった。事故のこと。手紙のこと。そして、彼女自身のこと。
 そのどれひとつとして、軽く流せるようなものではなかった。言葉を受け止めるのが辛く
なった時もあった。
 でも……私は目を開き、口を閉ざし、トルティニタさんの言葉に耳を傾ける。
「ずっと、クリスのことを自分一人で守ってるって思ってた。それができるのは自分だけだ
とも。でもね、そうじゃなかった。ファルシータさんと話して、それがわかったの」
「ファルさんが?」
「……知ってるの?」
「はい。その……色々とお世話になっています。素晴らしい方です」
「……そうだね。私もそう思う。あの人と会って話をしたからこそ、こうして私は誰かにこ
のことを話すことができたような気がするの」
 トルティニタさんは弱々しく微笑み、それから急に笑顔を浮かべる。
「そうだ。今度はあなたの話も聞かせてくれる? できれば……知っておきたいかなって」
「私の……話ですか?」
「……うん。駄目かな」
「いえ、そんなことはないんですが……でも……あまり、面白い話じゃないと思いますよ」
「もしリセさんが面白いかどうかを気にしてるのなら、大丈夫。でも、もし話したくないこ
とがあるんだったら、無理には聞かない」
 トルティニタさんが、笑顔で首を横に振る。なんて、優しい人なんだろう。多分私は……
そう質問された時に、酷い顔をしていた。自分の過去は、決して誇れるものじゃない。
「さて。じゃあ、これで私の話は終わりかな」
「あの……」
「ん? どうしたの?」
「私の話……その……」
「ああ、気にしないで」
「でも」
「いつか、話したくなったらでいいから」
「……はい」
 どうしてここで、臆病になってしまうんだろう。トルティニタさんはこうして、なにもか
も包み隠さず話してくれているのに。そうやって後悔しながら、どこかで安心もしている。
 彼女が背負ってきたものに比べれば、私が抱えている悩みなんて、ちっぽけで下らない。
そしてそれを、悟られたくもなかった。
「最後に一つだけ」
「は……はい」
 すっと、私の目の前に手が差し出された。多分、握ってくれという意味なんだろうけど、
その真意を量りかねて、戸惑う。しかし浮かべられた笑顔と、手のひらを上に返す仕草
で、私はそうせざるを得なくなった。
 その手を握ると、暖かくて、こうして誰かと触れあった最後の記憶が、あまりにも遠くに
感じられた。
「……クリスのことを、お願いします。こんなこと私なんかが言える立場じゃないのはわか
ってる。でも……でも……」
「ト、トルティニタさん」
「でも、私にはこうするしかできない。ほんとに……お願いします。もう、あなたに頼るし
かないの。もう……クリスの側に、私はいられないから」
 手が震える。多分、私もトルティニタさんのどちらもが、震えていた。彼女はそして、泣
いてもいた。それが繋がれた手から私に移り、気づけば私も涙を流していた。

彼女の気持ちが、すごく伝わってくる。辛かったことが。ずっと傷ついてきた彼女自
身のことが。
 そして同時に、彼女の気持ちが全くわからなかった。今、どんな気持ちで私にそれ
を託しているんだろう、と。
「ごめん……泣くつもりはなかったんだけど、ちょっと……無理だった」
「……いえ……いえ」
 私は、馬鹿みたいにそんな否定の言葉を続ける。でも、他に言葉が見つからない。
涙はまだ止まらず、こみあげる嗚咽を知られまいと、声を殺した。
 幸いトルティニタさんはうつむいたままで、私の顔を見てはいなかった。
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